AIが暗号の欠陥を60時間で見つけた話
代表取締役 上坂 大地郎
先週、Anthropicがちょっと面白いことを発表した。
Claude Mythos Previewっていう最新モデルが、耐量子暗号のアルゴリズム「HAWK」に対する攻撃手法を、約60時間で発見したっていうやつ。NIST(アメリカの国立標準技術研究所)が次世代の暗号標準候補として審査中のアルゴリズムに、AIが攻撃手法を見つけたっていう話です。
読んだ瞬間、「あ、これ種類が違うな」と思った。
何が起きたか、ちょっとだけ整理する
HAWKに対してやったことをざっくり言うと、「鍵の強度を実質的に半分に落とせる攻撃手法を発見した」ということだ。
暗号の世界では、鍵の長さを2倍にするのはそれなりのコストになる。「強度が半分になる」という発見は、設計の見直しを迫るくらいの重さがある話で、これが人間の暗号研究者がやるとなると何年もかかるような領域の話だ。それをモデルが60時間でやった。
もうひとつ面白かったのが、AES-128の簡略版(7ラウンド)に対して、「メビウスブリッジ」という独自のアルゴリズムを自分で開発したっていう点。従来の攻撃手法を200〜800倍高速化するというもので、既存の知識をそのまま使ったんじゃなくて、自分で新しい手法を作ってきた、ということになる。
念のために書いておくと、今すぐ実用上のシステムが危険になるとかそういう話じゃない。対象は実用前や簡略版のアルゴリズムで、開発コストは約10万ドルもかかってる。今のところ「できた」という実証であって、攻撃インフラとして整ってるわけじゃないです。
「道具」から少し先の使われ方が出てきた気がする
AIが「コードを書く補助をしてくれる」「ドキュメントをまとめてくれる」みたいな使われ方は、もうかなり普通になってきた。
今回の話はそれとちょっと構造が違って、「大量の前提知識を与えたら、そこから新しい発見を持ってきた」というパターンだと思う。
暗号アルゴリズムの研究って、専門知識の蓄積量が圧倒的に必要で、仮説を立てて計算して検証して、を何度も繰り返す。時間がかかる理由は、その反復のコストが高いから。そこに計算速度と知識密度を圧縮できるモデルをぶつけると、こういうことが起きるんだなと。
「研究者」って表現は言い過ぎかもしれないし、再現性とか発見のメカニズムの話は別途考えないといけない。ただ、道具として使うのとも違う、その中間くらいの使われ方が出てきた感じがしてる。
セキュリティ系の現場は、どう受け取るか
SESでエンジニアを送り出してる立場で言うと、セキュリティ系の現場はこういうニュースに敏感に反応するところが多い。
「AIが暗号の弱点を探索するようになった」という事実は、現時点の影響が限定的だとしても、ツールとしてのAIの使われ方の変化を予告してると思う。防御側からすると、攻撃手法の探索を自動化できるポテンシャルがある。もちろん、悪意ある使い方が整備されていくリスクも同時にある。
この辺の議論、1〜2年でかなり具体化してくる気がしてる。
Anthropicは「現在のコンピュータシステムへの実用上の影響はない」と書いてて、それはその通りだと思う。ただ、60時間で攻撃手法が出てきたっていう事実は、わりと大きい話として受け取ってる。何年か後に振り返ったとき、「あのあたりから変わったよね」ってなるかもしれないし、ならないかもしれないけど。
